ましゅよりましゅ

ただのヲタクの戯言。

一番にはなれない私だから・・・ 一話「アイドルの入り口を開けました」

「アイドル戦国時代」・・・誰かがそんな事を言い出した。

 

その名の通り、今はほんとに星の数程アイドルがいる。

 

その中でも、いわゆる「売れる」と呼べるメジャーデビューまでこぎつける

 

アイドルはほんの一握り。

 

ほとんどのコは、俗に言う「地下ドル」というカテゴリで。

狭いステージで、数人・・・多くても数十人の固定のファンを相手に

踊って歌って。

適当に「思い出作り」をして卒業していく。

私もそんな「思い出作り」のアイドルやってる高校生の女の子である。

 

▽▽▽

「一葉(カズハ)」って名前は、私の両親が「一番になれ」って意味で

つけた名前らしいけど、両親の期待に私はこたえる事が出来ず・・・。

いわゆる「器用貧乏」で。

何でもそこそこそつなくこなすけど。

決して何をやっても一番になれない人生だった。

(人生語るほど、まだ人生過ごしてないけどね・・・)

中学ではそこそこ人気もあった。ルックスも自分で言うのもおこがましいが

並以上には可愛いと自負してた。

 

勉強もそこそこできたから、高校受験は地元の近くの高校にすんなり決まった。

受験も終わって特に目標もなくアキバをふらふらしてたら、カラフルな衣装を

着た女の子が一生懸命チラシを配ってて。

「本日、私たち「ダウン・ジャケッツ」の定期公演です!女の子は無料です!

あ、こんにちは!私たちダウンジャケッツ・・・通称「DJ」っていうアイドル

グループなんですけど、アイドルのライブとか興味ないですか?」

「はあ・・・」

「もしお時間あるなら、一部は30分のミニライブなんで、見ていきませんか?」

その、リーダーらしい女の子は初対面の私に容赦なく、まぶしすぎるくらいの満面の笑みで勧誘してきた。

「・・・アイドルとか、興味ないですか?」

「まあ、お父さんの影響でハロプロとかは昔から好きだったけど・・・」

「ほんとですか!!今日、ハローのカバー曲もやりますよ☆決まり!!

このチラシ持っていけば無料で入れるから!!ね!!」

そのコの強引さに引っ張られるように私はその「ダウンジャケッツ」の定期公演とやらを見るハメになり・・・。

私のお父さんがハロプロのいわゆる「ヲタク」・・・ハロヲタだった影響で

私の小さい頃のお出かけは遊園地でもディズニーランドでもなく「コンサート」

だった。

私に取っての「アイドル」とは。

キラキラの衣装に身を包み。

大きなステージで。

何百人・何千人ってファンを相手にパフォーマンスを魅せる人たちの事だったわけで。

でも、今目の前にいるこのコは。

言ってしまったら申し訳ないけど、決して豪華とはいえないチープな衣装を着て

通りすぎる人たちも誰もそのコの事を知らない知名度で。

「私の知ってるアイドルとは違う・・・」

最初の感想はそんな感じだった。

多分、その定期公演とやらも恐らく文化祭の出し物レベルのお遊戯だと思って。

さほどの期待もしてなかった。

「ま、タダだしね・・・。つまんなかったらさっきのコには悪いけど出ちゃえばいいし。

「ダブルゲート」と書かれた看板があるって言ってたっけ・・・。あ、ここだ。」

小さなライブハウスの入り口にブラックボードで「ダウンジャケッツ定期公演」と書いてあったので間違いなくここのようだ。

周りのヲタクさん達の好奇の目に耐えながら恐る恐る階段を降りる・・・。

受付は女性スタッフだったんでちょっと安心した。

「こんにちは。あら、可愛いコ!」

「あ、あの、チラシ貰って観にきたんですけど・・・こういうところはじめてで・・・」

「まあ、ありがとう!男性のお客さんがほとんどでちょっと怖いかもしれないけど前列には椅子もあるから最初は着座で観たほうが安全かもね。ねえ、ちょっと!受付見ててくれる?このコ案内してくるから!」

「うぃーっす」

「さ、いきましょ。お名前なんていうの?」

「・・・カズハです」

「じゃ、カズちゃんね!よろしく!私はここの受付のサクヤっていいます」

「サクヤさん・・・可愛い名前ですね。アイドルみたい」

「私も昔アイドルやってたんだけどね・・・。色々あって今はスタッフ側に

回ってるんだ」

「そうなんですね!」

「うん。さ、この辺が観やすいんじゃないかな。ここ座って開演までちょっと待っててね。私は受付戻るけどなんか困った事あったら遠慮なく声かけてね!」

「サクヤさーん!!誰っすか?その可愛いコ!!」

「こら!!カズヤ!女ヲタヲタしないの!!推しに言いつけるよ?」

「ちょwwwそれは辞めてよ!!ただでさえ今喧嘩中なのに!」

「またセレナと喧嘩したの・・・?どうせまた他のコに浮気したんでしょ」

「だって、ドルヲタやってて一人だけ愛するなんて無理でしょ?」

「このクソDDめ!!」

「さーせんwww」

「・・・まあ、カズヤなら信用できるか。ちょっとこのコ、地下ライブ初めてみたいだから面倒みてあげてくれる?」

「ちょっと待ってよそれ俺がセレナにヤキモチ妬かれるパターンじゃん」

「ちゃんとセレナには事情話しておくから!よろしくね!」

「ちょwww待ってよ!ねぇ!!」

サクヤさんはその見た目がちょっとチャらい20歳前後くらいの「カズヤ」という男性に私を預け、慌しそうに受付に戻ってしまった。

「ったく・・・。アイドル時代から超絶我侭なんだから・・・。

ご、ごめんね?えっと・・・お名前なんていうのかな?」

「・・・カズハです」

「マジで???俺カズヤ!!すげー偶然だn」

「いやありきたりの名前だからそんなでもないでしょ」

「ちょwww冷たいな!!」

「初対面で仲良くするほうがおかしくありません?」

「えええ???キミいくつよ?昭和からタイムスリップしてきたの??」

「・・・いまどきのコが皆アナタみたくチャらいと思わないでくれます?」

「チャ、チャらいって!キミこそ初対面の人にチャらいとか失礼じゃn・・・」

「ほら、ライブ始まりますよ。座るなら座ってください」

「・・・いつもは俺立ち最前派なんだけど今日はカズちゃんに付き合って座りで見るかな」

「立ち最前??」

「そう。ほら。座って観たらつまんないじゃん?だから立って沸きたいヲタクは

椅子じゃなくて椅子の後ろの立ちスペースを陣取るんだよ。」

「へぇ・・・。近くで観れたほうがいいんじゃないんですか?」

「そーじゃないんだなー!!だって座ってたらオーイングとかMIX打ちずらいじゃん?」

「オーイング?MIX??」

「あれ?ほんとに何も知らないの?」

「ええ。こういうライブは初めてです。」

「そっか!ま、とりあえず推しのコ・・・じゃなくて、一番可愛いなって思うコでも探しながら楽しむといいよ!」

そういうとカズヤさんは、私になにやら警棒をちょっと短くしたような棒を差し出した。

「はい。これ、「キンブレ」って言うんだけど。普通は自分が好きなコ・・・「推し」って言うんだけどね。推しのコのカラーに合わせた色を振るんだけど。

とりあえず今日はユニットカラーのブルーにあわせておくからそれを周りにあわせて

振ってたらいいよ!」

「なんで光る棒を振るのですか?」

「なんでって・・・うーん・・・。そういや考えたことなかったなwそういうもんだって教わってきたから俺もw」

「適当なんですね」

「て、適当って!!ほ、ほら!メンバーにここにいるよーって気付いて貰えるように!」

「皆持ってたらわからなくないですか?」

ぐぬぬ・・・。ま、こまけえことはいいんだよ!始まるよ!!」

誤魔化すようにカズヤは私にキンブレというこの光る棒を押し付けて、そわそわした感じで暗転したステージを見つめだした。

「今日も気合入れていくよー!!」「オー!!」

暗転したステージの奥から掛け声が聞こえ、スモークがステージに広がっていく。

その途端、さっきまでフロアで雑談してた人たちが一斉に雄たけびをあげる。

「ヲイ!!ヲイ!!」

私は経験のない雰囲気に思わず身をすくめてしまった。

「・・・怖くないから。ね?カズちゃんも声出してみな?慣れてきたら。気持ちいいから!」

さっきまでうっとおしかったカズヤさんがちょっとだけ頼もしくみえた。

それほど私はこの異様な雰囲気にのまれていた。

 

フロアのボルテージが最高潮になった頃、ステージの袖から3人の女の子が元気よく飛び出してきた。

「こんにちはー!!!ダウンジャケッツですー!!」

「おおおおおおおお!!!!」

「今日もさいっこうに楽しい時間にしましょうねー!!」

さっきチラシを配ってた女の子がそういうと、会場が一斉にまた雄たけびをあげた。

 

「セレナー!!!!!」

 

突然カズヤさんが物凄いダミ声で叫びだした。

そっか。さっきチラシを配ってたコがセレナっていうのか。セレナさんがフロアにいる私に気付いたらしく、私に満面の笑みで微笑んでくれた。

「ちょ!カズちゃんいいな!!!セレナ滅多にレスくれないんだぜ?」

「レス・・・?」

「レスっていうのは、ステージから俺たちヲタクに手を振ってくれたりコールにこたえてくれる事!!」

「へぇ・・・悪い気はしませんね」

「でしょ!!俺なんてセレナにレス貰う為に生きてるようなもんだから!」

「みんな!ありがとう!それでは一曲目聞いてください。

「キボウノカケハシ」」

さっきまで笑顔でファンのコールに応えてた三人がぎゅっとマイクを握り直して真剣な表情で下を向く。

流れてくるメロディにあわせて、フロアの人たちが手拍子をしだす。

さっきの「キンブレ」って呼ばれる光る棒を振ってる人たちもいる。

曲は当然初めて聴いた曲。いわゆるアイドルソング。

三人が決して広いとはいえない小さいステージを

目一杯使ってパフォーマンスをしだした。

今まで大きなところでしかコンサートを観た事がなかった私は。

目と鼻の先で踊る彼女達のパフォーマンスに圧倒されて。

気付いたら私はセレナさんに釘付けになっていた。

「ありがとうございました!!」

一曲目が終わると、さっきまで真剣な表情でクールに踊っていたセレナさんが

くっしゃくしゃの満面の笑みでそういった。

 

おかしいと思うかもしれないけど。

 

「オンナノコ」であるはずの私は。

 

その表情を見た時。

 

胸の奥で「キュン」ってなる音が聞こえた気がしたんだ。

 

つづく。